労働者の切実な利益に直接関わる会社規則制度は、その制定や改定には法定の手順、即ち、民主的な手順で公示し、告知する手順を経る必要があります。さもなければ、規則制度を労働争議事案の根拠とすることはできません。
「労働者の切実な利益に直接関わる規則制度」を制定・改定する時には、3つの条件を同時に満たす必要があることがわかります。➀内容が合法的であること、②民主的に協議していること、③労働者に公示・告知していることです。
実務において企業が特に注意すべきは、「労働者に公示・告知」する手順が、規則制度の制定や改定の場合だけでなく、新入社員を採用する時にも必要なことです。新入社員に対しても、会社は規則制度の内容を告知し、且つ従業員が確認した旨の署名を証拠として残しておくべきと思われます。
会社規則制度公示の事例と分析
事例:
胡さんは、2008年8月に某アパレル企業に採用され、双方は3年間の労働契約を締結しました。2009年春節間近に、胡さんは休暇を申請せずに3日前に年越しのため帰省しました。春節連休後、会社は胡さんに解雇通知書を発行し、その理由として3日連続の無断欠勤を挙げました。会社の賞罰制度では、3日連続の無断欠勤は労働契約即刻解除の状況に該当すると明確に規定されています。
胡さんはこれを不服として、会社に労働契約違法解除の賠償金を支払うよう求めました。胡さんはその理由として、上述のような規定は見たことがない、と述べました。
労働争議仲裁委員会は、会社の当該規則制度が労働者に公示されておらず、法的効力を持たないと判断し、会社は胡さんに経済補償金の二倍の額を賠償金として支払うよう、最終裁決を下しました。
事例分析:
上述の事例から、会社の規則制度の制定手順や公示或いは告知の重要性がわかります。雇用企業の規則制度が手順要求に符合していない場合、内容が合法的でも、役に立たないということです。これにより、上述の某アパレル企業は労働契約を解除する合法的な根拠を持たず、労働契約の違法解除と認定され、2倍額の経済補償金支払いが生じました。
会社の規則制度の公示は、公告掲示でも、電子メールでも、或いは紙製のハンドブックとして各自に支給する方法でもかまいません。どの形式であっても、会社は公示した証拠を残すことが大切で、例えばハンドブックを支給した場合は、従業員本人に受領サインをするよう要求する方法もあります。
実務においては、新入社員の入社研修の際に、会社が規則制度の学習を必須項目とし、学んだ内容について確認のサインを取り、従業員に規則制度順守の承諾を求める必要もあるでしょう。
実務における規則制度公示の方法
従業員に規則制度の内容を理解させると共に、関連の証拠を残すために、会社は、正確な形式で全従業員に公示する必要があります。規則制度の公示方式には、一般に以下の種類があります。
- 規則制度を労働契約の付属書とし、労働契約中に専用の項目を設け、“労働者は、既に雇用企業の『労働規則制度』を詳細に閲覧し、遵守する意思を有する”と約定し、従業員にその労働契約を署名させる。
- 規則制度をハンドブック形式で従業員に渡し、従業員に閲覧させ、閲覧後に確認署名をさせる。会社は規則制度支給の証拠を残しておく。
- 規則制度を会社のイントラネットに掲示し、従業員がいつでも閲覧できるようにする。
- 会社の公共エリアに会社規則内容の全文を公告するとともに、その公示現場の写真やビデオを撮って、記録に残す。
- 規則制度を従業員個人のメールアドレスに送信し、発信記録を残す。
- 全従業員大会を開催するか若しくは全従業員を組織して規則制度の集中学習・研修を実施し、従業員に、規則制度研修の出席名簿に署名させる。(注意:新入社員は個別に告知する必要あり)
企業におかれましては、自社の特徴(ハード面、職場の性質等)に基づき、自社に適した公示方式を以って全従業員に規則制度を熟知させることにより、従業員が規則制度をよく知らないために起こる争議を減らすことができます。
また、規則制度の公示過程において、会社は公示の証拠を保存するよう注意する必要があります。労働 仲裁においては、会社が規則制度を労働者に公示済みであることを証明できない場合、上述の事例のよう に、その規則制度は労働仲裁の有效な根拠となり得ません。 |