試用期間中に、会社が違法解除であると判定されるリスクを回避するために、以下のように、主として採用条件に符合しないことによる労働契約解除の状況について、関連法規に基づき事例を参考にご説明します。
【事例-1】
朱さんは、2013年9月某社に入社しました。ポジションは販売員で、会社と朱さんは3ヶ月の試用期間を含む3年間の労働契約を締結しました。朱さんが入社して2か月経った時、当該社は『販売人員の待遇査定方法に関する通知』を発行し、それには“販売人員の試用期間は3ヶ月と設定する。試用期間中に販売業績が実現できない場合、試用期間満了時に労働契約は自動的に解除する。試用期間中に販売業績を実現した場合、翌月或いは試用期間満了時に自動的に正式採用とする。”と書かれていました。当該通知は同社の内部文書であり、朱さんを含む販売人員の研修はまだ計画実施されていませんでした。
朱さんは試用期間中の販売業績がゼロであったため、試用期間満了前に、会社が朱さんに口頭で試用期間不合格と告知し、その労働契約を解除しました。朱さんは、当該審査規定を知らなかったと主張し、会社の労働契約解除は違法だとして、会社に労働契約違法解除の賠償金を支払うよう求めました。労働争議仲裁委員会の最終裁决は、会社が試用期間中に朱さんとの労働契約を解除したのは法律規定に違反しており、朱さんに経済補償金の倍額を賠償として支払うようにというものでした。
【事例-1 の解説】
会社は試用期間中の審査要求を規定しており、確かに朱さんは試用期間中に規定の販売成績を完成できませんでしたが、試用期間の労働契約解除にはなお合法的な手順を遵守する必要があります。会社が試用期間の採用基準を制定していたとはいえ、朱さんには説明しておらず、労働契約或いは規則制度にも記載されていなかったため、当事者が事前に当該採用条件を知っていたとは証明できません。
本件は、会社が従業員採用時に採用条件を事前告知しておらず、また関連の証明を保留しておらず、更に会社が労働契約解除の際に口頭でのみ通知したことから、労働契約の違法解除と認定され、法定の経済補償金基準の倍額の支払いが必要とされたものです。
【事例-2】
史さんは、2014年7月に上海の某社に入社しました。行政助理を担当し、会社と史さんは6ヶ月の試用期間を含む3年間の労働契約を締結しました。3ヶ月後、会社は史さんが試用期間中に採用条件に符合しないことが証明されたという理由で、史さんとの労働契約を解除しました。史さんは当地の労働人事争議仲裁委員会に仲裁を申請し、会社に労働契約違法解除の賠償金を支払うよう求めました。当該要求は当地の仲裁委員会の支持を得られず、史さんは法院に訴訟を起こしました。会社側は応訴の際に、史さんが採用条件に符合しない理由は、史さんが、入社に必要な健康診断報告書や健康証明を主動的に会社に提出しなかったことだと主張しました。
法院は、会社が試用期間中に史さんの労働契約を解除した行為は違法解除にあたり、会社は労働契約違法解除の賠償金を支払うべきであるとの最終判決を下しました。
【事例-2 の解説】
会社は、史さんが健康診断報告書未提出の状況で既に入社手配を行っており、且つその職場が健康診断証明なしでは従事できない作業であるとは証明できず、更に、労働契約を解除する際にも採用条件に符合しない具体的な内容を告知していませんでした。法院の審理過程においてはじ めて、史さんが主動的に健康診断証明を提出しないことを理由として採用条件に符合しない主張を行ったわけですが、その理由はこじつけに過ぎません。
会社が従業員を採用する際に採用条件を明確に告知せず、客観的で合理性のある試用期間の審査を行わず、労働契約を解除する際にその理由を説明せず、労働争議が発生してはじめて証拠を集めて理由を探そうとしても、充分効果的な証拠を提出して証明することはできず、その結果、労働契約の違法解除と判定されてしまいました。
【事例-3】
孫さんは、某広告会社に応募し、入社しました。会社と孫さんは期限が3年の労働契約を締結し、併せて3ヶ月の試用期間を約定しました。後に、会社の経営状况がよくなく、孫さんは試用期間が満了する前に会社から労働契約解除の決定を受け取りました。解雇理由は、孫さんが“採用条件に符合しない”というものです。孫さんは、会社と交渉しましたが結論が出ず、法院に訴えて、会社に解雇決定の撤回を要求しました。
法院は、会社の労働契約解除が違法だと認定し、会社が引き続き孫さんとの労働契約を履行するよう判決を下しました。
【事例-3 の解説】
採用条件に符合しないことを理由に会社が試用期間の従業員との労働契約を解除し、争議が発生した場合、会社が立証責任を負わなければなりません。会社が、孫さんが既に採用条件を知らせていたことを証明できず、また、孫さんに、会社が言うような採用条件に符合しない状況が存 在したかどうかを証明する証拠も提出できない状況において、法院は、最終的に、会社の孫さん との労働契約解除の決定を撤回し、引き続き孫さんとの労働契約を履行するよう判決を下しまし た。労働契約継続履行の判定は、往々にして訴訟期間中の賃金待遇に関する紛争を伴いますので、会社は別途注意が必要です。
ご紹介した三件の事例を総合すると、会社が試用期間中の従業員との労働契約を解除する際に、具体的な状況を分析せずに、簡単に“採用条件に符合しない”という理由を用いて解除した場合(解除理由不当)や、従業員が採用条件に符合していないが、会社が法に基づき関連の証拠を保留しておら ず、提出できない場合(解除理由不充分)は、いずれも労働契約違法解除のリスクが存在するということになります。
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