(1) 持分譲渡も、増資引受けも、前期段階では通常、被投資企業(以下、「企業」という)の純資産に対する評価が必要です。
持分譲渡の場合、譲渡双方が評価価格を持分譲渡の支払い対価交渉・確定の根拠とします。増資引受けの場合は、評価価格により、新株主の投資金額及び増資引受け後の元の株主と新株主の出資比率を確定します。
具体的な申請手続きの段階になると、持分譲渡では、税務局が元の株主の投資収益を確定し、元の株主が納付する所得税額を計算するために、企業の純資産評価報告書の提出を求めることがあり ます。その根拠は、『国家税務総局の、非居住者企業の持分譲渡所得の企業所得税管理強化に関する通知』であり、同第7条で、次のように規定しています。
7. 非居住者企業が関連方に中国居住者企業の持分を譲渡し、その譲渡価格が独立取引の原則に符合せず、課税所得額を減少させた場合、税務期間は合理的な方法に基づいて調整する権利を有する。
ここでいう“合理的な方法”とは、一般に、第三者評価師事務所が発行した評価報告の提出を求め、それにより、持分譲渡価格の合理性を審査することをいいます。また、上記第7条の規定は、“関連方”間の持分譲渡をいっていますが、現在大部分の税務局は、非関連者間の持分譲渡でもこの要求を踏襲しています。
増資引受けの方法を採る場合、特に外国投資者が内資企業の増資引受けを行う場合(外資 M&A)は、商務部門も企業の純資産評価報告の提出を求める可能性があります。
(2) 持分譲渡は、非居住者企業間の譲渡(即ち、外国企業が外国企業に譲渡する方法)の場合も、中国企業から外国企業への場合も、外国企業から中国企業への場合もあります。
後ろの2つは、 企業が内資から外資に変更になるか若しくは外資から内資に転換する可能性があり、申請手続きも多少異なります。一方、増資引受けは、外国投資者が内資企業を合併買収する場合、当該内資企業が外資に転換する可能性がありますが、評価報告提出の必要がある場合を除きます。申請手続きは増資手続きと基本的に同じです。
(3) 一般に、持分譲渡の申請手続(概略)は以下のとおりです。
① 企業の純資産の評価、持分譲渡契約の締結
② 企業所在地の商務部門にて申請し、批准回答と新しい批准証書を取得
③ 受譲方が持分譲渡代金を支払う
④ 出資金会計監査(株主及び出資比率に変化が生じることにより、出資金監査報告に基づき新株主の出資証明を発行する必要あり)
⑤ 企業所在地の工商部門にて申請し、新しい営業許可証を取得
⑥ 税務登記証の変更申請(元の株主の投資収益を審査する必要あり。外国方から中国方への譲渡の場合は中国方が支払った譲渡代金から10%の源泉所得税を源泉徴収納税すること。外国方から外国方への譲渡の場合は、被投資企業が10%の源泉所得税を源泉徴収納税すること)
⑦ 組織機構代碼、外貨管理、税関等の後続の関連証書の変更手続き
その他の注意点
企業が生産型外商投資企業である場合、外資から内資に転換するモデルでは、これまでに享受した税収優遇の返還補填が存在するか否かに注意が必要です。2008年1月1日に新『企業所得税法』が施行され るまで、外商投資企業には多くの税収優遇政策が与えられていました。例えば、生産型外商投資企業は、利益が出た年度から企業所得税を2年間免税、その後3年間は半額減税の優遇を受けることができ、これらは過渡期として2008年1月1日以降も適用できるとされていました。生産型外商投資企業がこの定期 税収優遇を受ける前提条件のひとつは、外国投資者の外商投資企業における出資比率が25%を下回らず、且つ外商投資企業の経営期間が10年を下回ってはならないということです。
関連規定に基づき、この定期減免税の優遇政策を受けた外商投資企業が、その後税収優遇を享受する前提条件に符合しなくなった場合、それまでに受けた定期減免税の税金を補填納付する必要があります。生産型外商投資企業を例にとると、もし外国投資者が中国国内の企業或いは個人に持分を譲渡し、その結果外国投資者の出資比率が25%を下回り、当該企業の外商投資企業としての実際経営期間が10年に満たなくなった場合、当該被投資企業は、それまでに受けた所得税減免の税金を補填納付しなければならない可能性があります。
上述の不利な結果を鑑みると、外国方が持分を譲渡する際に、企業が従前に受けた所得税減免の補填納付の必要が生じた場合、企業の税収負担と一括して考慮し、持分譲渡価格をあらためて決定することをご提案します。
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