無期限労働契約の締結について、上海市の運用がほかの地域と異なります。上海市では、2009年3月3日上海市高級人民法院公布の『「労働契約法」適用の若干問題に関する意見』に従います。
- 無期限労働契約を締結すべきだが締結していない場合、「双方の間には無期限労働契約関係が存在すると見なし、元の労働契約により双方の権利義務関係を確定する」ことができる。
- 無期限労働契約を締結する条件に該当するが、当事者が期限付労働契約を締結した場合、契約期限満了時、当該契約は自然に終止する。
- 法定順延事由(医療期間、妊娠・出産・哺乳期間等)により、労働者の同一雇用単位での勤務時間が10年を経過した場合、無期限労働契約を締結する理由にならず、法定の延長事由が消滅することにより、契約は自然に終止する。
- 2回連続して期限付労働契約を締結した後、会社が3回目の労働契約締結を申し出た場合、労働者 は無期限労働契約を要求することが出来て、会社は応じなければならない。
上海市の判例
(1) 2008年以降、労働契約(以下「契約」という)2回目継続の場合
案件1:
【ケース1】 王氏は2007年11月にある運送会社に入社。双方は2008年1月1日以降、契約を4回更新し、直近の契約は2012年1月1日~12月31日。2012年12月26日、会社は期限付き契約の締結の意思を表明した。王氏は無期限契約の締結を求めたが、会社は契約を終止した。
【裁決の結果】 仲裁委員会は、会社に契約終止決定の撤回、労働関係の回復と無期限契約の締結を命じた。
【解説】 裁決の根拠は上記の4.なる。即ち、『労働契約法』第十四条第(三)項の規定に基づき、2回連続して期限付労働契約を締結し、且つ労働者に重大な規則違反など懲戒解雇事項に当たる状況に無い場合で、会社が労働契約締結の継続意思を表明し、労働者が労働契約の継続、締結を要求或いは同意すると同時に無期限労働契約の締結を申し出た場合、会社はそれに応じなければならない。ケース1で、労働者は会社と既に2回超の4回となる契約を交わしたが、結果として、4回目の締結であっても5回目の締結であっても、契約満了時、会社に継続の意思さえがあれば、労働者は無期限契約の締結を求めることができることになる。
案件2:
【ケース2】 張氏は2008年初にある食品会社に入社。契約は年に1回締結。直近の契約は2010年12月31日に期限満了。2010年12月中旬に、張氏は会社から契約終止通知書を受けた。張氏は無期限契約を会社に求めたが、会社は断った。
【ケース3】 李氏は2008年初にある製紙会社に入社。契約は年に1回締結。直近の契約は2010年12月31日に期限満了。2010年12月下旬に、李氏は会社から1年期限付き契約継続の通知書を受けた。李氏は、無期 限契約の締結を求めたが、会社は契約を終止した。
【裁決の結果】 仲裁委員会は、張氏の主張を支持しなかった。一方、李氏の主張は支持した。
【解説】 裁決の根拠は上記の4.「労働者が既に雇用単位と2回連続して期限付労働契約を締結した後、3回目に労働者と契約締結を継続する際に、労働者が無期限労働契約の締結を申し出た状況をいう」 となる。即ち、2008年以降契約を2回締結し、3回目の締結は、継続に関する双方の協議一致を前提とするので、2回目の期限付き契約満了時、会社は、契約の継続または終止を選択することができる。ケース2 で、会社は継続しない意思を表明したので、契約は期限満了をもって終止する。ケース3で、会社は継続の意思を表明(無期限契約を締結する意思はないが)したので、労働者が無期限契約の締結を求めれば会社はそれに応じる必要がある。
- 深セン市の判例の比較
【ケース2】とまったく同じケースで、深セン市の仲裁委員会は労働者を支持する裁決を下した。『労働契約法』第十四条第(三)項の規定に基づき、2回目の期限付き契約満了時、労働者に重大な規則違反など懲戒解雇事項に当たる状況に無いため、会社の継続意思有無にかかわらず、労働者が求めれば、会社はそれに応じるべきと判断した。
以上のように、特に「2回連続期限付き契約締結後、会社に契約を終止する選択肢があるかどうか」については地方によって意見が異なります。上海などの観点は3回目の締結時、会社に継続意思があることが前提となるので、会社は終止と継続のいずれかを選択できるという意見ですが、一方で、北京などは、3回目の契約締結時に労働者に重大な違反事項がない条件下で、労働者が無期限契約を求めれば、会社は無条件で無期限契約に応じなければならないとする意見です。
続く |