従来通り、夫妻は各自の姓名を用いる権利を有すると規定され、今の「婚姻法」も同様である。「夫妻の家庭における地位は平等」とする重要な基本原則に基づき、婚姻当事者が有する姓名権享有の権利は、決して婚姻関係発生の影響を受けないことを示すとされる。
姓名権は独立人格権·社会的地位の一指標
姓名権は夫妻関係中の重要な身分権の一つである。姓名は旧中国とは違い、今日では個人を区別するために用いる符号にすぎないが、姓名権の有無は独立人格権と独立の社会的地位の有無を示す一指標であると説明される。
旧中国社会における女性の姓
旧中国社会では結婚前の女性の多くは正式の姓名をもたず、幼名か「何々家の何番目の娘」といった呼ばれ方をされ、結婚後は夫の姓(張)に従うか、自己の父姓(王)に夫の姓を冠して氏を付加し「張王氏」と称するのが一般的であった。既婚女性は夫の親族に属し、夫権の下に置かれていたからである。このような「冠姓」の習慣は、今も香港や台湾などで見られる。同時に、父系血縁関係を維持するために子どもは父の姓に従わなければならず、この原則を変更することは許されなかった。
希少な特例ではあるが、男子のない家の継承のための変則的弁法として、「贅婿(貧家の男子)」は妻の家に入りその姓に従い、子も母の姓に従ったことがある。この贅婿は独立の人格を奪われ妻家の父権の下に置かれ、社会的地位は極めて低いものであった。自己の生来の姓を称することができるか否かはその社会的地位を表していたのである。
夫妻姓名権の完全平等の保障は、建国翌年に憲法に先駆けての制定「五〇年婚姻法」において確立された。男女·夫妻平等原則の確立、旧姓名制度の女性と贅婿の差別廃止が実現されたのである。
夫妻の姓に関する法的意義·対処方
1、婚姻後の夫妻各自がもつ姓名享有権保障
- 「八〇年婚姻法」以来その文言は「夫妻双方」となっているが、その重点は妻が夫の姓に従わされた伝統的原則を徹底的に排除することにあり、既婚女性の独立した姓名権を保障し、女性の独立人格権の保護にある。
- 夫妻各自の姓名享有権は婚姻関係の影響を受けない。婚姻後も双は姓名権の独立性を保持し、婚姻生活の具体的状況·双方の職業·収入および扶養関係に変化を発生させるものではない。夫が妻の家庭に入る(家庭成員になる婚姻)ことは、かつての旧制度下の「入贅」とは全く異なり、この夫は自らの姓を名乗 る権利を有するし、子の姓も父姓にすることができる。
2、夫妻の平等な姓名問題決定権
- 法制度は、さらに、夫妻双方が平等な立場において自主的にその姓名問題を決定する自由をも認めている。双方の自主的協議で一致すれば、夫が妻の姓に従うことも、妻が夫の姓に従うことも、相手の姓を自己の姓に被せる(冠姓)ことも、さらには、共同で第三の姓を選択して名乗ることも、すべて認められる。夫妻各自の自己姓名の使用は、双方の平等な姓名権享有を意味し、夫妻の一方のみがこの権利を享有するものではない。
- 婚姻関係存続中、夫妻のいずれの一方も法に基づき自己の姓名を変更する権利を有し、他方はこれに干渉できないし、また盗用·偽称することもできない。
もっとも、現実には夫妻双方は婚姻後も自己の姓を続称するので、新中国建国後の改姓・冠姓は極めてまれである。
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