離婚事件の審判実務において、調停離婚はかなり大きなウェートを占めています。調停離婚は専ら自由意思によるもので、当事者にも受け入れやすく、調停調書に確認された内容を自発的に履行するのが一般的ですので、紛争が後を引くといった問題は比較的に少ないです。とはいえ、訴訟内調停離婚には次のような注意すべき中国特有の問題点が見られます。
裁判官の責任感欠如と職務怠慢
(1)軽率離婚
裁判官が調停と和睦說得を行わない、または和睦說得が不十分であったがために、当事者が軽率に離婚する場合があります。興奮、憤慨などの感情的な状況の下で、当事者双方が極めて短時間内で離婚協議に達することが起こります。もし、裁判官に社会的責任感が欠如しており、単に事案の早期解決を意図し、当事者双方に対する十分な和睦說得を行わず、直ちに離婚調停調書を作成するならば、共同生活を継続する余地のある夫妻をも軽率な離婚に導く結果を招くこととなります。
(2)多目的のための方便離婚
裁判官が緻密な分析や調査を行わないために、当事者が調停離婚を手段として、非法な目的を達成したり、またはその他の利益を得たりすることがあります。外見上は、当事者双方が離婚に同意し、紛争も全く生じていないように見えますが、実際には、双方は意図的に離婚を利用して、次のような目的を達成するための手段としている場合があります。
①子の戸籍変更
これは、子が一方当事者(親)に従い農業戸籍に属する場合によく見られる事例です。従来、子の戸籍は母の戸籍に従うものとされてきました。母が農業戸籍者である場合、結婚しても母の戸籍は変わらないので子も農業戸籍となります。中国では農業戸籍は、非農業戸籍(都市戸籍)に比し何かと多大な差別を受け、進学·就職等において極めて不利です。そこで、子の農業戸籍を他方親の都市戸籍に変更することを目的に、両親の離婚後、子は都市戸籍の親に養育され一緒に生活する内容の協議離婚をして、子を都市戸籍に移籍する目的を達成しようとするものです。
②债務弁済回避
夫妻共同財産の全部またはほとんどを配偶者の一方に帰属させ、债務者である他方配偶者には財産が全くないか、またはわずかな価値の極めて低い財産しかないように離婚財産分割をして、債権者の権利行使から逃れようとする離婚です。
③その他の利益取得
例えば、都市部では離婚によって夫妻は别世帯となるので、住居を一世帯分增加できることを目的とした離婚とか、農村部では同様に離婚によって請負土地〔責任田〕の配分を增加してもらえるためといった種々な方便のための離婚です。
裁判官の職務遂行上の留意点
以上の問題や結果の発生を回避するため、裁判官はこうした事案を審理するに際して、次の二点についての十分な職務遂行を行わなければならないと說かれています。
(1)調停および和睦說得を着実に行うこと
当事者からの離婚提訴後、人民法院は直ちに離婚事件の審理に当たって判決を下すのではなく、まず法院内の離婚調停を行わなければなりません。
人民法院の当事者に対する離婚調停となる和睦說得は必須の手続です。その手続過程において、調停の役割を発揮し、当事者間の和睦という目的を達成させるためには、裁判官の業務上の素質·社会的経験·職務能力·事物に対する分析判断力·巧みな說得表現力などの多方面にわたる能力が総合的に要求され試されます。裁判官は具体的な状況に基づいて、法·道理·義理人情の各側面から、当事者間の和睦說得に最大の努力を尽くさなければなりません。仮に調停和睦が無効に終わったとしても、直ちに当事者に対して調停調書を送達するのではなく、冷静仁処理することを要し、当事者が慎重に考えるに十分な熟慮期間を設ける方が、往々にしてより良い効果が得られるのです。
(2)当事者の生活状況の綿密調査の必要性
人民法院は、当事者の所属単位(職場·組織)または居住地の基層組織(居民委員会·村民委員会)に対して、当事者の生活状況についての綿密な調査をすべきです。
調停離婚は当事者双方の合意行為の一種ですが、単なる当事者双方の要望にのみ係るものではありません。法律は国家の審判機関としての人民法院に離婚の認否に関する最終的な裁決権を与えています。たとえ当事者双方が離婚に同意した場合であっても、人民法院は離婚の合法性いかん、さらには社会的效果としての是非を離婚の最終的な認否基準としなければなりません。これらニつの基準は明白な事実関係に基づくものです。人民法院は民事事件を審理するに当たって、当事者の自由意思の原則に基づき、さらに明白な事実関係を基礎とした上で、その是非をはっきりと区別し、調停を行うこととされています。
当規定によれば、調停の前提は事案の事実関係を明白にすることが必要で、離婚調停においてもしかるべきです。綿密な調査分析をしてはじめて、当事者双方の感情の真実状況を全面的に把握することができ、うわベの状況にごまかされないで済みます。裁判官は、良き職業道德と強靱な社会的責任感をもち、誠心誠意をもって離婚当事者の和睦說得に尽力するとともに、事案の事実関係を明白にしてこそ、はじめて心が離れかけた夫妻を元のさやに納めることや個々の離婚調停事件がすべて法規定に適合することを保障できるのであると說明されています。 |